2008年10月29日水曜日

「違う性」を生きる

POD CASTで聴くワールドニュース第10回。 

今回は、バルカン半島南西部に位置するアルバニアの、 
「転換」に関する話題。 
少々長いですが… 


英BBC Global Newsから。 


'Sworn Virgins' 


アルバニアの北部のある田舎の村。 
男性優位の考えがまだ強いこの村では、 
男の子や父親のいない家庭は、 
「弱者」とみなされてしまう。 
この「社会的ハンディキャップ」を克服するための一つの方法が、 
家族の中で女性が「地位」を変えること、つまり、 
「男性」として生きることだという。 
アルバニアがかつて共産主義国家であった時代に、 
この習慣は消滅したと思われていたのだが、 
今も少数ではあるが、これが続いている家庭があるという。 

BBCの記者がアルバニアのその村へと向かった。 

インタヴューを承諾してくださった、チャミーラ・ステンマさん。 
黒の装束の上に、腰まであるマントを羽織り、 
被った帽子が白髪を覆っている。 
チャミーラさんは一見、アルバニアの一般的な老人男性である。 
しかし、そのしわの多い顔を見て、甲高い声を聞くと、 
実は女性だということがわかる。 

チャミーラさん「近所の人たちは、私を男性として敬い、 
握手を求め、お元気ですかと声をかけてくれるんです。 
彼らは私の顔と声のせいで、私が女であるということを知っています。 
しかし、男性として接してくれるのです」 

88歳のチャミーラさんは、 
この村で数少ない「男性」に「転換」した女性である。 
伝統的に家父長制度が続いてきたこの地域では、 
特に貧困層の女性が「男性」に「転換」するという習慣が続いていた。 
手術などで物理的に性転換するというのではなく、 
男性の格好をし、村で男としての役割を果たすことによって、 
社会上のステータスを変えるという意味での「性の転換」なのである。 

このような「転換」をする一つの理由が、望まない結婚を避けるため。 
またチャミーラさんのように、 
結婚後男の子が生まれず、後継ぎがいないので、 
娘が「男性」に「転換」せざるを得ないということもあるという。 

チャミーラさん「私は10歳の時に 
髪を男の子のように短く切りました。 
父親は私が2歳の時に亡くなってしまい、 
母親が一人で私を育ててくれました。 
私には3人の姉妹がいましたが、 
ずっと昔に3人とも嫁に出てしまいました。 
誰かに頼まれて「男」に「転換」しようと思ったのではありません。 
実際、母親は私にずっと女性でいてほしかったようです。 
しかし、私は彼女の面倒をみるために、 
「男性」になることを決意したのです。 
友人や親せきは、私がまだ20歳の時に、 
『そんな男みたいな格好はしないで、あなたも結婚なさい』と言いました。 
でも私は嫌と言いました。 
だから今でも私は男の格好なんです。 
そして、周囲は私のことを尊敬してくれています」 

実際、彼女はこの村の長老の一人としてみなされている。 
彼女の親せきの話によると、この村では、 
彼女はよくいざこざ解決のために呼ばれるという。 
彼女の助言が村の紛争解決につながるのだという。 

社会学者のデルビーシさんは、 
これまで20人の「男性」に「転換」した女性を取材してきた。 
彼によると、女性が「男装」するという風習は、 
共産主義の時代に禁止されてきたが、 
今も伝統の習慣として残っているという。 
「男装」していることを公言し、 
地域で男性としての役割を果たすことによってのみ、 
その女性と家族が、 
男の血筋がいないというアルバニアの一部の村における 
「社会的弱点」を克服できるという。 

BBCの記者が取材を終えてこの地域を去る前、 
伝統的なお酒でチャミーラさんの長寿を祝福した。 
そのときに、彼女に最後の質問をした。 
「男性」への「転換」はあなたにとって本当に幸せな選択だったか?と… 

チャミーラさん「男性として生きてきたことは、 
この上なく幸せなことだったと思っています。 
良い人生でした」 

(BBC Global News October 22 配信分より) 


違う性の人間として生きる。 
日本でも男のいない家系は不利であるという感がかつて強くありました。
しかし、アルバニアのこの村では、「社会的性転換」を行うことで、
このハンディキャップを克服できる。
ある意味、寛容な考え方であると感じました。

ただ、家父長制度がまだ強く残っているという点では、 
まだ考え方が古い社会だという意見もあるかもしれません。 

チャミーラさんは最後に「男」として生きたことが幸せだったと語っていましたが、 
本当のところはどうだったのでしょうか。 
さまざまな苦労を経験されてきたということは、
実際に彼女の声を聞いてなんとなく伝わってきました。
そういうことを口に出さず、幸せだったと語ったチャミーラさん。
彼女の生きざまは、「男」より「男らしい」と感じずにはいられませんでした。

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